医師統計を「人数比べ」から解放する
医師の多さは、医療体制を考えるうえで重要な手がかりです。しかし、医師が多い国ほど、すべての住民が必要な診療を受けやすいとは限りません。アラビア語圏の国々でも、都市部と地方、人口の若い地域と高齢化が進む地域では、必要とされる医療の形が異なります。
医師統計を読むときに大切なのは、単純な人数ではなく、「誰が、どの分野で、どこにいて、どの世代に属しているのか」を確認することです。今回参照した資料には、医師の総数、人口に対する医師数、年齢と性別、職種の分類、医療従事者の高齢化など、異なる角度から医師を捉える統計が含まれています。
人口当たりの医師数が示すもの
人口当たりの医師数は、人口規模の異なる国や地域を比較しやすくする指標です。国全体の医師数だけでは、人口が多い国と少ない国を同じ尺度で見ることが難しいため、この指標には大きな意味があります。
ただし、この数字は医師へのアクセスを直接示すものではありません。医師が首都や大都市に集中していれば、全国平均が一定の水準に見えても、遠隔地では受診までの距離や待ち時間が大きな負担になる可能性があります。また、医師が登録されていることと、現在、臨床の現場で働いていることが同じとは限りません。
したがって、人口当たりの医師数は、医療への入口を考えるための基礎資料であり、医療の質や公平性を単独で判断するための答えではありません。
専門分野の構成に注目する
医師の総数と同じくらい重要なのが、専門分野の内訳です。一次診療を担う医師、外科系の医師、精神医療に関わる医師、画像診断や検査を支える医師など、医療は多様な役割の組み合わせで成り立っています。
専門医が多くても、地域の診療所や救急医療を支える人材が不足していれば、住民は大病院に集中しやすくなります。反対に、一次診療を担う医師が確保されていても、高度な治療を行う専門分野との連携が弱ければ、必要な患者が別の地域へ移動しなければならないことがあります。
OECDの「Physicians by categories」は、医師をカテゴリー別に見るための統計です。このような資料は、医師の総数を一つの塊として扱わず、医療提供体制のどの部分が厚く、どの部分が薄いのかを考える助けになります。
| 指標 | 分かること | 読むときの注意 |
| 医師の総数 | 医師人材の規模 | 実際の勤務状況や地域分布は別に確認する |
| 人口当たりの医師数 | 人口規模を調整した配置の目安 | 受診しやすさや医療の質を直接表さない |
| 年齢・性別別の医師数 | 医師 workforce の構成 | 将来を予測する指標として断定しない |
| 分野別の医師数 | 専門性の組み合わせ | 国ごとに分類方法が異なる場合がある |
| 医療 workforce の高齢化 | 医師を含む人材の年齢構造を考える材料 | 医師だけの統計と同じ意味ではない |
年齢と性別は「将来予測」ではなく構造の確認
「Physicians by age and sex」は、医師がどの世代に属し、性別の構成がどうなっているかを示す統計です。これは、現在の医療 workforce がどのような構造を持つのかを理解するために役立ちます。
医師の年齢構成が偏っている場合、経験豊かな人材が多いことを示す一方、研修中の人材や若い医師の層が十分かを確認する必要があります。しかし、年齢構成だけから退職時期や将来の不足を決めつけることはできません。定年制度、勤務形態、移住、専門研修、女性医師の就業継続など、複数の要因が関係するからです。
性別の統計も、単なる比率比べではなく、医師がどの診療分野や勤務地域で働いているかと合わせて読むことが重要です。患者が望む診療環境や、夜間・休日を含む勤務体制を考える際にも、医療人材の構成は意味を持ちます。
分類表は「翻訳機」として使う
米国のCMSが公開する「Medicare Provider and Supplier Taxonomy Crosswalk」は、医療提供者や供給者の分類を対応づける資料です。これは特定の国の制度をそのまま他国へ当てはめるための資料ではありません。一方で、医療統計では同じ「医師」という言葉でも、専門資格、勤務場所、請求上の区分、登録上の職種などが異なることを示す例になります。
国際比較では、名称が似ているから同じ集団だと考えず、どの資格を含むのか、臨床に従事している人だけか、研修中の医師を含むのかを確認しなければなりません。統計の分類は、数字を増減させるためのものではなく、比較対象の範囲をそろえるための「翻訳機」と考えると理解しやすくなります。
読者が確認すべき三つの問い
医師統計を読む際は、次の問いを順番に確認すると、誤解を避けやすくなります。
まず、その統計は人数を示しているのか、人口に対する密度を示しているのか。次に、医師の専門分野や年齢、性別の構成まで分かるのか。最後に、国全体の平均ではなく、地域差や勤務実態を確認できるのか、という問いです。
医師の数は、医療を測る一つの入口にすぎません。人口当たりの指標、専門分野の構成、年齢と性別、分類方法を組み合わせて読むことで、医療体制がどのような人材の組み合わせで支えられているのかが見えてきます。国や地域を越えて比較するには、順位を競うより、統計が何を含み、何を含まないのかを丁寧に確かめる姿勢が必要です。
出典
- Centers for Medicare & Medicaid Services「Medicare Provider and Supplier Taxonomy Crosswalk」
https://data.cms.gov/provider-characteristics/medicare-provider-supplier-enrollment/medicare-provider-and-supplier-taxonomy-crosswalk
- OECD「Physicians by age and sex」
https://data-explorer.oecd.org/
- OECD「Physicians」
https://data-explorer.oecd.org/
- OECD「Physicians by categories」
https://data-explorer.oecd.org/
- OECD「Ageing healthcare workforce - Regions」
https://data-explorer.oecd.org/
- World Bank「Physicians」
https://data.worldbank.org/indicator/SH.MED.PHYS.ZS